切らないデュピュイトラン拘縮の日帰り手術

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デュピュイトラン拘縮とは?

 デュピュイトラン拘縮とは、手のひらの皮膚の下にある、手掌腱膜と言われる薄い線維性の膜(コラーゲン)が変性し、過剰に増殖、肥厚して収縮することによって指が徐々に曲がってくる疾患です。
 原因は不明ですが悪性疾患ではありません。中年以降の男性に多く発症し、環指,小指に好発します。初期には手のひらに結節、硬結,小陥凹ができ皮膚のひきつれ(Noduleが生じ、経過とともに索状物(Codeとなり指が伸ばしにくくなります。中指、人差し指などへと徐々に拡大することもあります。
 通常痛みはなく、曲げることもできるため、おおよその生活はできますが、指を伸ばせないため、拍手がしにくい、手袋をはめにくい、洗顔時に鼻や目を突いてしまうなどの支障が出ます。

 人種差があり白人(地中海の周囲)に多く、日本人には比較的少ない傾向があります。長期のアルコール摂取は危険因子で、糖尿病の方はデュピュイトラン拘縮になり易い傾向にあります。反対側や足の裏、陰部にも索状物できることがあります。

大きく切開するデュピュイトラン拘縮の従来の手術方法

治療法はどのようなものがありますか?

 治療法は、以前はコラーゲンを分解して索状部を溶かす酵素注射療法がありましたが、2020年から、現在まで供給が停止しているため、現状の治療は手術しかありません。

 手術は切開を大きくいれて行う拘縮解除術が従来行われてきました。手のひらをジグザグもしくは階段状に大きく切開して皮膚の下の硬結や索状部を切除していきます。神経血管が索状物に巻き付いているため、手外科専門医による高度な技術が要求される手術で、手術時間も数時間に及ぶことが多く、入院して全身麻酔で行われることが多くなっています。傷が大きくなるため、術後に皮膚の癒着や滲出液が出続けるなどのトラブルが起きやすく、通常の手術後よりも長期間の通院による創処置が必要になります。
 そこで、当クリニックでは、超音波を用いることで、切開をせずに行う「切らない手術」で硬結や索状物を切離し拘縮を解除する方法を独自に開発し、施行しています。従来の術式のデメリットをなくす画期的手術手技です。日帰りで、手術時間の短縮安全性の確保通院期間の短縮早期の家事や仕事への復帰などのメリットを提供できるようになりました。

 手術の切開が大きく、痛みを伴う術式では、重症になるまで手術療法が選択されないケースがありましたが、切らない手術が適応できれば、より早期の正しい時期に手術が選択でき、重症になる前に治療できるのではないかと考えています。

保存療法と切開手術のすき間を埋める新しい治療法

〜最新の治療法〜デュピュイトラン拘縮の切らない手術とは?

 デュピュイトラン拘縮では、索状の線維のまわりに指の神経血管が巻き付いてしまい、簡単には切離できないため、大きく切開して、神経をひろく露出することで、索状物から神経を剥がして切離する必要がありました。
 当クリニックでは、いち早く超高精細エコーを導入し、独自に開発した方法で、他の疾患に対して「切らない手術」を施行しております。その技術を応用し、デュピュイトラン拘縮の原因となっている索状物を皮膚を切開することなく、拘縮を解除する術式を考案しました。新しい術式では、エコーを用いて神経血管の位置を把握するため、大きく切開を入れる必要はありません。硬結や索状物の切開も針で行うため、メスで切開を入れなくても指の拘縮を改善することができるように術式を開発いたしました。
 具体的には、手のひらに麻酔をかけたあと、超高精細エコーで手のひらの硬結、索状物の数、位置を把握します。同時に周囲の神経血管の位置を3次元的に把握します。その後、硬結、索状物を針で切離して徐々に拘縮を解除していき、指がまっすぐに伸びるようになるまで同様の操作を繰り返します。注射針で行うので、傷は注射と同等で、ほとんど痕は残りません。索状物の位置、数、大きさで刺入の数は症例によって異なりますが、基本的には1箇所ではなく、複数箇所に及ぶことが多いです。出血はほとんどなく、当日と翌日の腫れと出血がすくなければ、手指をすぐに使うことが可能です。また、難治例では、関節の硬さを生じていることが多く、数日のみ指を伸ばすための装具をつけることがあります。出血が治れば水仕事もできるようになります。

(低侵襲手術ですが、手掌腱膜を切開するため、多少の痛み、腫れは出現します。術後はできるだけ無理をせずに、力仕事や不要不急の労働・作業は1ヶ月程度は避けるようにして下さい。)

切らないデュピュイトラン拘縮の手術

手術後も一変させる「切らない」手術

 切開する手術は、手のひらに大きな傷ができ、術後の傷の手当てが長期間(通常23週間)に及ぶため、仕事を休んだり、水仕事を一定期間やめるなどの不自由を必要としました。切開部の際拘縮予防のために長期間装具をつけたり、リハビリに通ったりする必要もありました。

 切らない手術は針だけで行うため、傷がなく術翌日から入浴でき、痛みが少なく、仕事の制限も起きにくく、装具の装着期間の短縮通院リハビリの短縮など患者さんの治療の利便性において、圧倒的に優位があります。

切らないデュピュイトラン拘縮の手術のメリット

下がるリスク

メリット

出血・血腫

安全性の向上(神経・血管を術前に可視化して保護できる)

感染

麻酔注射の痛みが少ない

腫脹、浮腫

痛い止血帯を巻く必要がない

麻酔液量

消毒通院の短縮

薬剤アレルギー

抜糸が不要

神経血管損傷

傷あとが残らない

疼痛

ほぼ翌日から入浴可能

CRPS

手術時間が短い

皮膚硬結・ケロイド

術後の痛みが少ない

可動域制限

リハビリが不要(重症例を除く)

皮膚癒着

術後の装具装着が不要か短期間

最大の長所は安全性

 切らないデュピュイトラン拘縮の手術は、エコーを用いて、注射針だけで目的の組織を切開して病態を改善する当クリニック独自の小侵襲手術です。エコーを用いることでいままでできなかった体内の組織を切らずに標的にできるようになりました。最大の長所は手術前・手術中に行う神経、血管の位置の把握にあります。今までは切開するまで神経血管の位置はわかりませんでした。解剖学的知識でおおよその神経血管の位置は把握していますが、個人差があり、どうしても神経血管を痛めるリスクを残していました。

 エコーガイド下の小侵襲手術は、手術開始前、手術操作中のいかなる時も神経血管の位置を把握することができ、その損傷リスクを可能な限り低下することができます。小侵襲であると神経血管の損傷リスクが増えるジレンマがありましたが、エコーガイド下手術は安全性を向上しつつ、小侵襲(体の負担を軽減)を両立できる新しい術式です。

 現在のところ、エコーガイド下デュピュイトラン拘縮の手術はほとんど本邦では行われていません。技術的に難しい面もありますが、エコーをガイドにして行う整形外科手術はまだほとんど導入されていないのが実情です。当クリニックは、最先端治療が提供できる地域のクリニックとして患者さんの役に立っていきたいと考えています。

デュピュイトラン拘縮の術式による比較


通常の切開を

する手術

「エコーを用いる」

切らない手術

傷の大きさ

4〜5cmもしくはそれ以上

1mm

痛み

強い

少ない

皮膚・皮下への損傷

あり

ほぼない

抜糸

必要

不要

手術時間

2−3時間

1時間

安全性

(神経・腱の損傷の少なさ)

確実性

(切り残し・切りすぎの少なさ)

麻酔

全身麻酔が多い(入院が必要)

局所伝達麻酔(日帰り)

手術翌日以降の入浴

✖️

リハビリ

必要

重症例を除き不要

術後通院期間

2−3週間(創処置、抜糸が必要)

1〜3週間おき

手の手術に精通した「専門医」が行う安心・最新の治療

 切開をいれずに針の操作だけで手術を行うため、エコー操作技術と画像の評価、針先を精密に操作する技術が必要になります。当クリニックは、整形外科専門医の中でも、手の手術に精通した手外科学会認定専門医が行います。国内・海外で臨床を積んできた専門医が、極限まで合併症を減らした安心・最新の治療法を提供いたします。

使うのは超高精細エコー

 安心・確実な手術を行うために必須なのが、0.1mmの分解能をもつ超高精細エコーです。何より画像で確認することが最も重要であると考えております。そのため、当クリニックでは一部の大学病院レベルでしか採用されていない手の手術に特化されたエコー機器を用いています。

24Mhzのプローブを備える、Canon製超高精細エコー

デュピュイトラン拘縮の手術の特徴

 デュピュイトラン拘縮は次のような特徴があります。

こんな方に切らないデュピュイトラン拘縮の手術が向いています​

 デュピュイトラン拘縮の患者さんは、中高年の男性の方が多く、社会的にも働き盛りです。「切らない」デュピュイトラン拘縮の手術は、術後の回復が早いため、早期に日常生活に戻れて、仕事に早く復帰できるため、以下のような方に向いています。

① 仕事を休めない方

② 水仕事をされる方、主婦の方

③ 手を使うスポーツをされる方

④ 痛みに弱い方

⑤ 傷を残したくない方

⑥ 通院回数を減らしたい方

⑦ 音楽家やミュージシャンの方

切らない手術のデメリットはありますか?

 切らないデュピュイトラン拘縮の手術は、切開を行う手術よりも、内部が見えないため、神経血管などの重要組織を傷つけてしまう危険性があると考えられがちですが、先に述べたように、エコーで重要な神経や血管は見ることができるため、事前に損傷を回避できます。むしろ内部を見ずに切開していく切開法の方が危険性が高いと考えています。

 それでも、通常の整形外科で使われる18MHzのプローブではごく小さい神経や血管が十分に見えていない可能性がありました。そこで整形外科超音波診断治療を導入している当クリニックでは、24Mhzの超高精細プローブ(エコーでは、周波数が大きいほど分解能が高い)を導入し、その危険性を可能な限り下げるようにしています。

 また、切開をしないため、索状物を完全に摘出することはできません。摘出しなければ切離した索状物の残骸が残りますが、通常はそれによって症状が遺残することはほとんどありません。皮膚のしこりが残った場合、どうしても気になるようであれば切開にて摘出することが可能です。

 索状物が多い場合、刺入部が増えるため、若干の皮膚トラブルを生じることがありますが、それでも切開よりはかなり皮膚の損傷は少ないと思われます。切らない手術は、切開を入れる手術と同等の成果が見込め、痛みと傷が少ない安全な治療だと考えています。

その他の手術の合併症について

 いかなる手術・処置も体に侵襲を加えるため、合併症のリスクがあります。具体的には、①薬剤によるアレルギー、②腫れや出血・血腫による合併症、③感染、④神経・血管損傷、⑤疼痛またはそれによる運動障害、⑥血栓・塞栓症、⑦皮膚瘢痕・ケロイド・創部痛、⑧関節拘縮もしくは関節不安定性(関節を操作する場合)、⑨その他の合併症(CRPSなど予期せぬ合併症や、患部のみならず他の部位の不具合など)などを生じることがあります。未来は予測できないことも生じますので、状況に応じて最善と思われる対処法(薬剤の投与、術式の追加、処置の追加、蘇生処置、救急搬送など)を行います。緊急の場合は、同意なく行うこともありますが、ご理解のうえ手術をお受けください。

最後に

 治療を行う際は、患者さんがもし自分の家族であったらぜひ受けてほしいと思う治療法を提案するように心がけております。

「切らない」デュピュイトラン拘縮手術はそのような治療法であると確信しております。わからないことがあれば診察時に何なりとご質問ください。治療に際しては納得して手術を受けていただくことが大切だと考えております。できるだけ不安を取り除き安心して手術をうけていただけるように適宜しっかり説明をさせていただきます。

文責 整形外科専門医・手外科専門医 戸谷祐樹

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