切らないテニス肘(上腕骨外側上顆炎)の先進治療 〜治りにくい腱の病気の新しい治療法について〜

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始まりは、腱のわずかな損傷から

 テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は肘の外側が痛くなる、頻度の高い疾患です。40代、50代の年齢層に多く、男女差はありません。テニスやバトミントンなどのラケット競技者に頻度の高い疾患ですが、テニスをしていなくても、日常動作や仕事で、腕を使い過ぎることで発生することもあります。
 テニス肘は単なる使い過ぎでなるのではなく、肘の外側にある、手首や指を伸ばす短橈側手根伸筋や総指伸筋と呼ばれる腱の老化が強く絡んでいます。腱はコラーゲンでできていて年齢とともに脆くなります。そのためスポーツに限らず、日常生活のちょっとした使い過ぎで腱を痛めてしまうのです。ちょっとした動作で損傷が起こった場合、その動作が生活中に繰り返されるために損傷が治る時間が作れず、損傷し続けてしまいます。これが腱の損傷が治りにくい理由です。

 痛みが出現して病院を受診した頃には、かなり腱の障害が進んでしまっていることも多くありません。

 当クリニックでは、できるだけ超音波検査やMRIを行い、腱の状態を調べどの程度損傷されているかを評価いたします。

肘の外側が痛くなるテニス肘

治りやすいのは最初の3ヶ月

 人間には自然治癒力が備わっています。腱の損傷も、しっかり休めば自然と修復されてきます。しかし、修復には2~3ヶ月が必要で、なかなか完治まで休めない方が多いのが実情です。

 さらに、自然治癒力には期限があり、通常受傷後3ヶ月でその能力は下がってきます。痛みに気づいてからなるべく腱を休ませ、3ヶ月以内に治るように努力することが大切です。

ダメージを受けた手首の腱の付着部

炎症の悪循環を防ごう(難治性にならないために)

 最初の損傷が治らずに数ヶ月間損傷しつづけてしまうと、修復のためにおきた血流増加反応が過剰におこり、痛みの神経と炎症血管(もやもや血管とも言われています)の増殖、局所の血流低下、浮腫を起こすようになります。こうなるとなかなか修復反応が起こりにくくなり、炎症がつづく慢性期(難治性)となってしまいます。慢性期には、瘢痕組織とよばれる炎症組織がはびこり正常な腱の再生は起こらなくなります。

 これを防ぐには、できるだけ炎症を長引かせないことが大切です。炎症の原因である炎症血管や神経をなくす様々な治療法を使って炎症の悪循環を断ち切り、組織の修復・再生を促していきます。

腱の損傷の進行度

炎症の悪循環

初期治療の選択肢

 治療には、様々なものがありますが、通常、痛みの少ない治療から選択します。治りにくい症例には、注射や再生医療、手術などの治療法を選択することになります。当然、痛みを伴ったり、仕事を休んだり、費用も増える治療を選択していくようになります。

①まず試したい治療(注射以外)

1. リハビリテーション :筋腱・関節の柔軟性改善、癒着はがし、運動機能改善、日常生活の指導
2. マッサージ、ストレッチ :自己で行うコンディショニング
3. 体外衝撃波治療(ショックウェーブ):衝撃波による神経・炎症血管の減少、修復細胞活性化
4. 超音波治療 :微細振動による組織血流増加、腫脹軽減
5. テーピング・装具 :腱にかかる負荷を減らして保護
6. 薬物治療 :疼痛炎症の緩和

②注射治療

1. ハイドロリリース :神経・腱・血管の癒着はがし、滑走改善、血流増加

2. ステロイド注射 炎症軽減、疼痛軽減

ステロイドの注射は、すればするほど悪化の可能性

 ステロイドは除痛効果が高いため、一般的によく行われますが、長期的成績は良くありません。ステロイドの強い抗炎症効果で、疼痛の原因となっている炎症は一時的になくなるのですが、逆に痛みが消えることで、患部を使い過ぎてしまい、腱の損傷が知らない間に深刻化してしまうからです。また、ステロイド自体に、コラーゲンを弱体化させる作用があるため、注射を繰り返すと、腱損傷のみならず、腱断裂、骨壊死、靭帯損傷を生じることがあり、複数回の注射にとどめて、それでも治らない場合は他の治療を考慮すべきと考えています。

進行期、慢性期の治療法

 初期治療で治らない場合、次に挙げるさまざまな治療を試すことになります。これらの多くは、近年開発されてきた注射を主体にした新しい治療法となり、一部保険適応がありません。種類も多く、状況に応じて治療法を選択していくことになります。最終的に症状が改善できない場合は、手術治療を選択することになります。

 また、一つの治療法では対応できない場合は複数の治療を組み合わせて行うことになります。

①腱の炎症を抑える治療

1. ステロイド注射 炎症軽減、疼痛軽減(注射回数は、複数回のみ)

2. 炎症血管治療 :再生を阻害する炎症血管の軽減、浮腫の改善・血流改善による組織の再生促進
3. スクレイピング :炎症血管を物理的に壊す針を使用した処置

②腱の再生・柔軟性回復を促す治療

1. プロロテラピー :腱のコラーゲンを強化するブドウ糖注射
2. ヒアルロン酸注射・ハイドロリリース :腱や周囲の組織の癒着や滑走障害、血流障害を改善する注射
3. フェネストレーション・ドリリング :腱実質、骨実質に針刺激を加え血小板による組織再生を賦活化
4. バイオテラピー(PFC-FD療法) :自己の血小板を濃縮して取り出した再生因子を注射投与
5. 関節鏡の手術 :関節鏡により不良組織を含んだ滑膜や陥入したひだを切除する手術
6. 切開手術 :切開して不良な腱、滑膜組織を切除する古典的手術=Nirchl法
7. TENEX®︎手術(経皮的腱滑膜切除術):超音波により腱を乳化(柔らかくする)して新鮮化する手術
8. 切らない滑膜切除の手術:損傷した腱の内部で瘢痕化した部分を極小のデバイスで除去して新鮮化する手術

③腱を修復する手術療法

1. 切開手術 :切開して行う腱縫合手術
2. 切らない腱縫合の手術 :エコーガイド下に不良な腱滑膜切除、腱の腱縫合を行う次世代型の小侵襲ハイブリッド手術

④関節を安定化する手術

1. 靱帯再建術 :腱の損傷が進行し靭帯損傷を起こした重症例で、不安定な関節に対して、靭帯を再建する手術

当クリニックの特徴:最新治療の合わせ技

 当クリニックでは、症例に合わせたオーダーメイド治療を心がけております。保存治療を中心に、最終的な手術治療まで、できるだけ最新最善の治療を提供するように心がけています。そのため、当クリニックでは、従来の切開する手術は行っておりません。切開しないことで、できるだけ手術による損傷を少なくしつつ、不良組織の切除腱の縫合まで行うハイブリッド手術を行っています。損傷が大きい場合は再生医療や他の炎症軽減の治療を組み合わせて行っています。
  切開をいれる手術は、病気が進行している患者さんから敬遠され、適切な時期に手術が行われず、病状が悪化してしまうことも少なくありませんでした。

一般的なテニス肘の治療法の問題点

 それぞれの小侵襲治療は、切開手術ほどの負担がないため、適切な時期にお勧めしています。
 また、「切らない」手術は、合併症などで抗凝固療法をされている方にも出血を抑えて施行できるメリットがあります。その他の合併症も、のちに述べるように低減することが可能なため、「切らない」手術は、注射と従来手術の間のギャップを埋める新術式と考えられます。

注射と手術のすき間を埋める新しい治療法

当クリニックのテニス肘治療の特徴

最新の保存的治療法を紹介します

①体外衝撃波治療(ショックウェーブ)

 皮膚の上から衝撃波を患部に当てることによって、痛みの原因になっている炎症血管と疼痛神経を減らし症状を改善します。また、不良な腱を壊して血管新生を起こし新しい腱を再生させる作用もあります。

②超音波治療

 超音波による微細振動で血流増加と浮腫を軽減し、局所循環を良くすることで腱の再生を狙う治療です。また温熱治療や電気治療も併用可能(コンビネーション治療)のため、同時に行うとさらに血流改善の効果が見込めます。

③ハイドロリリース

 生理食塩水や乳酸リンゲル液を含む液体を的確に患部に注入することで、その部位の癒着、滑走(動き)低下、循環不全、神経への刺激を解消させる目的で行う注射です。対象になる部位は腱そのもの、周囲の筋肉、神経、血管になります。循環がよくなり、腱・神経の癒着がとれて滑走が改善し、動き・つっぱり感がなくなることで修復が起こりやすい状況をつくります。同じテニス肘でも注射部位を変えると効果が異なりますので、複数回行い、リハビリと併用すると効果的です。

④ヒアルロン酸注射

 ヒアルロン酸はもともと体内で作られていますが、生理食塩水と比べ保水力、粘調性が高いため、ハイドロリリースよりその効果が高いと言われています。ただ、保険適応ではないため、ハイドロリリースで効果が少ない方が希望された場合に選択されます。

⑤炎症血管治療

 腱の修復過程を阻害している原因は、炎症が慢性化することにあります。炎症は血管が強く関与しており、血管から放出される痛み物質、神経増殖因子が痛みを増幅させています。ステロイドによる炎症軽減効果はこれらを軽減はしますが、血管をなくすことができないため、ステロイドがなくなると痛みが再発することになります。
 「炎症血管治療」は炎症血管そのものを塞栓物質によって詰めることで、炎症血管自体がなくなるため、痛みを軽減し、なおかつ腱の修復阻害を改善することができます。微粒子である塞栓物質は、正常血管では詰まらずに、細い炎症血管でのみ選択的に詰まるので、正常血流を阻害しません。ステロイドのような副作用がないこと、治療後の生活制限がないことなどメリットも多く、さまざまな疾患に治療適応が拡大されています。

⑥スクレイピング

 炎症血管は周囲から侵入しており、腱の内部のむくみを起こし血流を阻害しています。腱の周囲を剥離することで炎症血管の侵入をなくす新しい手技を処置を「スクレイピング」といいます。できるだけ体の負担を減らすために、当クリニックでは切開をせずにエコーガイド下に針だけで行います。(疾患の状態により施行できないことがあります)

⑦プロロテラピー

 ブドウ糖を含んだ薬液を患部に注射する治療法です。浸透圧の違いと利用し、細胞レベルで患部に浸透していき、組織再生と腱の硬化を起こす治療法です。コラーゲンに局所反応を起こすことで体内の自然治癒力を引き出し、腱の再生を促進します。比較的安全性が高く、治療による生活制限もないので、早期より試せる治療法です。

⑧フェネストレーション・ドリリング

 損傷した腱が修復するためには、さまざまな修復促進因子が必要と考えられています。多くは血液のなかの血小板に含まれており、慢性化した損傷腱にはその修復促進因子が不足しています。本来は損傷した時に放出されるものですが、時間が経つと放出されなくなり修復が起こらません。フェネストレーションは腱に針を刺すことで、腱内部に出血を起こし、再び修復を促す治療です。

 また、腱は骨に付着しており、その骨の内部には骨髄といわれる部分があります。骨髄のなかには、修復促進因子や腱に成長する血液幹細胞を豊富に含んだ血液があります。そのため、腱のフェネストレーションと同時に、骨の内部まで多数の穴を開けて骨髄内の血液を腱の内部に漏出させる治療をドリリングといいます。

 通常フェネストレーションとドリリングは同時に行うことが多く、腱の修復を促進させます。術後の日常生活動作は、疼痛に応じて可能ですが、手術操作により、ある程度の腫れや痛みを生じることもあるため、術後1ヶ月程度は重労働やスポーツ禁止などの安静が必要になります。

⑨PFC-FD療法(PRP療法)

 患者さん自身の血液を採取し、血小板内部に含まれる豊富な修復促進因子抗炎症因子を回収し、濃縮させて患部に投与する方法です。PRP療法といわれている再生医療がこれにあたりますが、細胞成分を除き、濃縮工程を洗練したものがPFC-FD療法です。上記で述べたフェネストレーションやドリリングよりも高濃度の修復促進因子を投与できるため、なかなか改善しない難治例やアスリート・スポーツ愛好家のような早期復帰を目指す方に良い適応になります。

エコーを用いた独自の「切らない」手術

 すでに述べたような保存療法でも改善がない場合は、手術療法を考慮することとなります。「切らない」テニス肘の手術は、①腱滑膜切除②腱縫合術があります。

 エコーガイド下の小侵襲手術は、まだ国内外の一部の医療機関でしか行われていません。技術的に難しい面もありますが、エコーをガイドにして行う整形外科手術はまだほとんど導入されていないのが実情です。当クリニックでは、海外での臨床経験を積んだ医師により独自に開発した手技を用いることでそれを可能にしよりよい成績を求めて努力を続けています。最先端治療が提供できる地域のクリニックとして患者さんの役に立っていきたいと考えています。

  1. ①切らない腱滑膜切除の手術

 慢性化したテニス肘は腱の付着部に不良な組織や滑膜が増殖しており、炎症の温床となっています。これらの不良組織を取り除くと痛みが取れるため、以前は切開して切除していました。近年、関節鏡を用いて関節内の滑膜を切除する手術を行うようになり一定の効果を認めています。関節鏡の手術は、入院と全身麻酔が必要になることが多く、また関節外の腱滑膜の病変は対応しにくいため、症状が残ることがありました。靭帯の損傷のリスクがあるのも問題点とされています。カメラと操作デバイスを挿入するため、最低でも2か所の傷を必要とします。

 関節鏡手術の弱点を補うために、当クリニックで独自に開発した方法が関節外からのアプローチを可能にした切らない腱滑膜切除の手術です。注射針や極小滑膜切除デバイスを用いて1か所の傷で、痛みや炎症の原因になって腱の再生を阻害している瘢痕組織を最小限の傷で除去する最小侵襲手術です。使用するデバイスは関節鏡よりも細く、外套といわれる筒も使用しないため、切開の傷なしで行うことができます。しかも局所麻酔で行えるので、日帰りで疼痛も少なく、従来の関節鏡手術より負担が少ないのが特徴です。

 腱の再生を促すフェネストレーション・ドリリングやPFC-FD療法を追加するとより再生の促進ができるため、可能な限り同時に施行することを推奨しています。

 ただ、腱の損傷が大きく、切除する範囲が大きい場合は、腱が骨より剥がれていることが問題となります。腱が骨に生着していなければ、再び瘢痕が形成されて痛みが取れないため、次に述べる腱縫合の手術の適応になります。

  1. ②切らない腱縫合の手術

 腱の断裂範囲が大きかったり、瘢痕組織が多く、それを掃除する必要があり場合、どうしても切れて退縮した腱と生着していた元の位置(骨)との間に隙間(ギャップ)が生じてしまい、そこに再び瘢痕が形成されてしまい、炎症が続くため痛みが取れないこともあります。従来は切開して瘢痕組織を取り除き、断裂した腱を骨に穴を開けて縫着していました。やはり、全身麻酔と入院が必要となり、傷も大きくなる欠点がありました。肘の外側の傷は夏になると半袖で人目につく部位のため、傷が残ることを気にされる方も多くおられます。

 そこで、当クリニックでは、切開せずに腱を縫合する日帰り手術を独自に開発し、導入しています。切らない腱縫合の手術は、①腱滑膜切除の手術に加え、②断裂した腱を、骨に縫着する腱縫合の手術の、2つの手技を同時に行うハイブリッド手術です。

 具体的には、局所麻酔のみで、超音波ガイド下に正確に瘢痕のみを除去して、腱を新鮮化させたのち、術中レントゲン撮影を行いながら、断裂した腱を骨アンカー(留め具)を用いて骨に縫着します。ハイブリッド手術により、腱の掃除と修復を同時に行え治療効果を高めています。

 日帰りで、傷が残らないため、女性の方でも術後の傷の心配がなく、痛みも少ないことが特徴となります。低侵襲で関節周囲の癒着が起こりにくいうえ、感染のリスク、合併症の低減といった安全性の向上が見込める術式です。

 ただし、腱の再生や生着には1~2ヶ月を要するため、その間は、重労働やスポーツは避けることが必要になります。日常生活は通常の場合、早期より可能です。当日より入浴も可能です。

2つの手技を同時に行うハイブリッド手術

使うのは超高精細エコーで、安全を確保

 当クリニックで使用しているのは0.1mmの分解能をもつ24MHz超高精細エコーです。切らない=見えないではなく、一部の大学病院レベルでしか採用されていない上肢の手術に有用なエコー機器を用いているため、切らなくても正確に内部を見ることができます。安全性の高い治療だと考えられます。

手外科学会認定専門医が行う安心・最新の治療

 切開せずに針だけで手術操作を行うため、確実な知識と技術が必要です。当クリニックでは、整形外科専門医の中でも、上肢の手術に精通した手外科学会認定専門医が行います。国内・海外で臨床経験を積んできた専門医が、極限まで合併症を減らした安心・最新・現時点で最善とされる治療法を提供いたします。

「切らない」手術と従来の手術治療の違い

 当クリニックは、現状行われている手術の欠点を改善すべく、独自に「切らない」手術を開発してきました。その特徴は、切開を加える術式と違い、まず痛みが少ないことが挙げられます。もちろん、日帰りで行え、傷が残らないうえ、その日からお風呂に入れます。感染の危険性が少なく出血も少ないという特徴があります。最大の利点は、術前にどこに神経があり、どこに靭帯や血管があるか把握できるため、安全性が高いことです。切開法でも切開していく際に神経は見えないため、気をつけないとメスで神経の枝を切ってしまうことがあります。内視鏡の手術は光学カメラが入るまで何も見えないうえ、見えても視野が狭いため、視野外のところを操作するには、神経損傷の怖さがあります。「切らない」手術は、切開をしないのに、神経血管を傷つけない究極に安全性の高い手術であると考えています。

切らない腱縫合の手術のメリット

下がるリスクメリット
出血・血腫日帰り
感染手術時間が少ない
抜糸が不要腕に巻く止血帯の痛みが少ない
麻酔液量2日に1回程度の術後の消毒通院が不要
薬剤アレルギー傷あとが残らない
神経・血管損傷術当日から入浴可能
皮膚硬結・ケロイド内視鏡法に潜む危険を回避できる(関節内操作による軟骨損傷や神経損傷)
可動域制限手術前に高精細エコーで神経と血管等の配置を確認するため、安全性が高い
CRPS

こんな方にお勧めします

 中高年の女性に多い病気ですので、このような方に有益な治療法です。

① 早期から水仕事に復帰したい方
② 肘に傷跡を残したくない方
③ 通院回数を減らしたい方
④ 痛みに弱い方
⑤ 既往歴で抗凝固薬などを服用されている方
⑥ 病気が悪くなる前に予防したい方
⑦ 肘を使うスポーツをされている方
⑧ 仕事が休めない方
⑨ 主治医に手術を勧められているが切開したくなくて踏み切れない方
⑩ 全身麻酔や入院はできない方

手術の合併症やデメリットはありますか?

 切らない手術は、エコー操作とその読影技術など、専門的知識の必要な手術ですが、高精細エコーを使うため、神経血管、腱の把握にすぐれ、内視鏡に比べ神経などの損傷のリスクは低くなっています。また、出血や術後の創部の痛みや瘢痕などは、傷がないため、他の術式よりは少ないと考えられます。

 ただ、いかなる手術・処置も体に侵襲を加えるため、少なからず合併症のリスクがあります。具体的には、①薬剤によるアレルギー、②腫れや出血・血腫による合併症、③感染、④神経・血管損傷、⑤疼痛またはそれによる運動障害、⑥血栓・塞栓症、⑦皮膚瘢痕・ケロイド・創部痛、⑧関節拘縮もしくは関節不安定性(関節を操作する場合)、⑨その他の合併症(CRPSなど予期せぬ合併症や、患部のみならず他の部位の不具合など)などを生じることがあります。未来は予測できないことも生じますので、状況に応じて最善と思われる対処法(薬剤の投与、術式の追加、処置の追加、蘇生処置、救急搬送など)を行います。緊急の場合は、同意なく行うこともありますが、ご理解のうえ手術をお受けください。

具体的に、どの治療法を選んだら良いですか?

第1期】発症してから12ヶ月以内の方

 腱の損傷間もないため、自然治癒力を期待できる時期です。新たな損傷を起こさないように動作改善を指導しつつ、リハビリを中心とした治療を行います。

① まずはリハビリ、ストレッチ指導、装具療法、体外衝撃波治療、超音波治療などの初期治療をしっかり行います。

② 疼痛が強ければステロイド注射を複数回試します。

③ リハビリで神経滑走、腱滑走の低下や、柔軟性が改善しない場合はヒアルロン酸注射ハイドロリリース注射を行います。

 

第2期】数ヶ月以上経過したり、ステロイドの注射を複数回された方

 難治例に移行する可能性があるため、①−ABの治療に加え、腱の修復力を高める治療を行います。

① プロロテラピーの注射はもっとも簡単な腱の強化を狙った治療で生活制限がなく副作用も少ないため【第2期】では最初に試すことの多い治療です。

② 痛みが強い場合や、ステロイド注射でも再発を繰り返すような、炎症が根強い場合は、炎症血管をなくす目的で、炎症血管治療を行います。

③ 腱・骨への刺激療法として、少し侵襲的ですが、フェネストレーション・ドリリングを行います。

 

第3期】半年以上の経過している方

 難治例となり炎症を伴った瘢痕組織が増殖しており、腱の断裂は修復しにくくなっています。瘢痕組織を取り除いたり、断裂腱を縫合するなどの処置が必要になることが多いです。

① できるだけ痛みの少ない治療を希望される場合、自身の自然治癒力を高める方法として再生医療(PFC-FD療法、PRP療法)を行います。

② 腱の炎症血管を退治するためにスクレイピングを行います。手技・使用する道具が似ているため、スクレイピングの効果を高めるためにフェネストレーション・ドリリングを同時に行うこともあります。

③ 瘢痕組織(炎症性滑膜の増生)が多いと炎症と疼痛神経が増殖しているため、症状がなかなか取れません。その場合、増殖した滑膜切除を切除します。TENEX®︎による経皮的腱滑膜切除や当クリニックで行っている切らない腱滑膜切除の手術が適応になります。

④ 腱の滑膜切除だけでは腱と骨の間のギャップが大きい場合、腱の自己再生ではギャップが埋まらないため、手術で腱を縫着する必要があります。当クリニックでは、従来型の切開手術ではなく、独自に開発した切らない腱縫合術を行います。

⑤ 肘がぐらつく程の不安定性があったり、関節内遊離体や滑膜増生による最重症例では、靭帯再建を行うことがあります。(全身麻酔が必要になるため、当クリニックでは行っておりません)

腱の慢性損傷の治療戦略

治療法の選択

 一般的に効果が少ない治療法は、痛みが少なく、仕事やスポーツを続けながらでも治療ができ、安価だが、通院回数が多くなったり、効果が少ない傾向にあります。逆に、効果が高い治療法ほど、痛みが強かったり、生活制限が強かったり、高価だったりする傾向にあります。

治療選択のイメージ

手術をお考えの患者さんへ

 「手術」という言葉の魔力のため、適切な時期に適切な治療ができず、病気が進行してしまい、腱が回復不能になってから手術を選択されるケースも多くみられます。できるだけ痛みや恐怖心を少なくできれば、もう少し早い段階で手術に踏み切ることができ、しっかり回復して生活に復帰できるのでは、という思いから、この切らない手術を考案し、治療を行っています。
 「切らない」手術は、当クリニックで開発された独自の手技です。日本で、同手法を早期より導入しているパイオニアクリニックとして、他院にはない繊細かつ緻密な方法で、腱の修復不十分や神経血管損傷などのリスクを減らし、安全性、確実性を進化させています。 

 当クリニックでは、保険診療か自費診療かを患者さまにお選び頂く場合、患者さまに、これらのメリット・デメリットをきちんと説明し、ご自身で選んでいただくこととしております。そして、選んでいただいた治療を可能な限り全力を尽くして行います。当クリニックでは、患者さまとの信頼関係が最も重要であると考えています。お互いに信頼しあえなければ、治療を提供することはできません。ご不明な点はお気軽にご相談ください。
不安なことがあれば納得するまで医師にお問い合わせください。納得して治療に踏み切れるように可能な限り丁寧に説明させていたきま

 

文責 整形外科専門医・手外科専門医
戸谷祐樹

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