切らない手根管症候群の手術

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じわじわと進行する手根管症候群
手根管症候群は、手首の付け根にある手の甲の部分を支える靭帯が太くなり、神経を圧迫することで発症します。最初はわずかな指のしびれから始まるため、あまり気づかない方も多く、痛みがなければ、それほど困ることもなく、放置されがちな病気です。しかし、神経は屋根である手首の靭帯に押しつぶされ、指を動かす腱に床から揺さぶられ、徐々にやられていきます。
痛みが出現して病院を受診した頃には、かなり神経の障害が進んでしまっていることも多くありません。
当クリニックでは、診断がついた状態で、神経の具合を調べる神経伝導速度検査を行い、正確にどの程度神経がやられているかを評価いたします。それによって、早めの手術が必要か、待期することが可能か判断いたします。
痛みが取れたら良くなったと勘違いしていませんか?
主な手根管症候群の治療方法
手根管症候群の治療は軽症、中等症、重症にわけて行われます。
(1)軽症の場合
装具療法、体外衝撃波療法(ショックウェーブ)、温熱療法、鍼治療、注射療法、湿布・薬などによる薬物療法があります。なるべく簡便で痛みを伴わない治療が優先されますが、痛みが取れない場合は注射を行うことも多いです。注射はステロイドを使いますが、神経や周辺の組織の腫れを取るのが目的になります。
最近では、もやもや血管による痛みを軽減する目的で、血管動注療法を行うこともできます。もやもや血管は、損傷した靭帯や神経のまわりに病気の進行とともに増えてきて、症状の原因となっていきます。手術を避けられる可能性もあり、新しい治療法です。
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(2)中等症以上の場合
保存療法がうまくいかなければ、手術が行われます。エコーで神経の圧迫や腫れがみとめられ、神経伝導速度検査で中等度以上の障害が認められれば適応になります。手術療法は通常手のひらを切開することで靭帯に到達し、靭帯を切ってトンネルを開放することで神経の圧迫を解除し、治療します。手外科専門医であれば、内視鏡で行う手術も主流となってきており、4mm程度の小さい傷で行えます。刺入部位は1箇所の方法と2箇所の方法があります。
(3)重症の場合
上記の手根管開放術に加え、親指の筋力低下を修復するための腱移行術を行って、指の動きを再建します。
なぜ、切らずに手術が行えるのか?
「切らない」手根管症候群の手術は、エコーを用いて、注射針や特殊デバイスだけで目的の組織を切開して病態を改善する小侵襲手術です。エコーを用いることでいままでできなかった体内の組織を切らずに標的にできるようになりました。
エコーガイド下の小侵襲手術は、まだ国内外の一部の医療機関でしか行われていません。技術的に難しい面もありますが、エコーをガイドにして行う整形外科手術はまだほとんど導入されていないのが実情です。当クリニックでは、海外での臨床経験を積んだ医師による、最先端治療が提供できる地域のクリニックとして患者さんの役に立っていきたいと考えています。
「切らない」手術と、従来の手術治療(小切開法と内視鏡手術)の違い
手根管症候群の治療は保存療法としての注射やショックウェーブ、薬物治療やリハビリなどと、手術療法に大別されます。
保存療法の注射などは、効果は一次的で再発が多く、進行例では効果に乏しいなどの欠点がありました。また、手術では、切開を加えるか、内視鏡の手術しかありませんでした。
切開を加えると、傷口の痛みが続く「Pillar Pain」と言われるものが一定の確率で発生します。これは一旦発生すると難治性で、手術後の生活を著しく阻害する合併症です。切開を加える方法では、皮膚→皮下組織→皮下脂肪→手掌腱膜→横手根靭帯というふうに、切離をしたい横手根靭帯に到着するまでに、皮膚およびそれより深層にある組織を損傷しないと手術ができません。しかも、その途中に正中神経の細い枝である、「掌側皮枝」が存在し、まれにそれを知らないうちに切ってしまうことがあります。「Pillar Pain」の原因の一つはこの見えない「掌側皮枝」の損傷にあるのではとも言われています。
内視鏡の手術の場合も 、同じように神経損傷の可能性があります。これは、内視鏡でみると神経と靭帯がよく似て見えることがあるため、判別がつかないまま操作を行うと、神経を損傷する危険が伴います。その判別には熟練が必要で、最近では術前にエコー(超音波検査)を行って、神経の位置を把握する手技もでてきています。
従来は、上に述べたように、切開を加える小切開手術と4mmの太さの内視鏡の手術しかありませんでした。内視鏡の手術で、術前にエコーをあてて神経をみつける検査をする手技と、海外での臨床経験で行っていた特殊デバイス(この特殊デバイスは日本の審査が通っておらず、本原稿執筆時には日本では使用できません)を用いた手技を、それぞれ参考にして考案した手技が、当クリニック独自の「切らない」手根管症候群の手術です。
すなわち、切開を加えずに、高精細エコーを見ながら、経皮的に刺入した針か、もしくは細い特殊ナイフをつかって、靭帯を①緩めて神経の圧迫をとる方法(あみ飾り法)、②確実に切開してトンネルを開く方法(フックナイフ法)、の2つの方法を行っています。エコーを使った手根管症候群の手術は海外で行われていますが、日本ではあまり行われていません。
①の靭帯を緩める方法は当クリニックの独自に開発した方法で、他の手術で使用していた手法を手根管症候群に応用したものです。比較的若い患者さんで、本来備わっている手首の靭帯を完全に切ってしまう従来の手法に抵抗がある方や、これからまだまだ手を使っていきたい方のために、靭帯を残した上で、神経の圧迫をとる画期的な方法です。すこし手術時間はかかりますが、靭帯を温存できる点で、早期の手根管症候群、妊婦さんや若い患者さんでも手術を受けていただけます。しかも、この方法は針を使うため、注射と同等で傷は目立ちません。適応については、受診していただいた際に説明させていただきますので、手のしびれや夜間痛がある方は受診をお勧めします。
②の靭帯を切開する方法は、靭帯を内視鏡よりも細い道具でエコーガイド下に切開いたします。針よりはすこし大きいですが、内視鏡よりは小さいため、ほぼ傷は残りません。ある程度進行した手根管症候群、比較的中高年者の方が良い適応と考えています。
当クリニックで行っている「切らない」手術の特徴は、切開を加える術式と違い、痛みが少ないことが挙げられます。もちろん、日帰りでおこなえ、傷が残らないうえ、その日からお風呂に入れます。切開が小さいため、感染の危険性も少なく、出血も少ないという特徴があります。切開については4mmの太さの通常の内視鏡手術よりも小さく、ほぼ目立ちません。
傷の大きさと痛みは注射とほぼ同じ
針もしくは細い特殊ナイフによる操作のみで行うため、痛みはほぼ注射と同じです。もちろん傷の大きさも注射と同じで痕は残りません。
日帰りで、その日から水に濡らしても大丈夫
手根管症候群は、中高年の女性に多い病気です。毎日家庭を切り盛りし、料理など水を使うことが多いため、当日から水が使えて、仕事を休まずに日常生活にすぐに戻れる「切らない」手術は良い適応だと思われます。
(低侵襲手術ですが、靭帯を操作するため、手のひらの基部に多少の痛み、腫れが出現します。組織の修復と、炎症による疼痛の軽減には1~2ヶ月はかかるため、できるだけ無理はせずに、力仕事や不要不急の労働・作業は術後1~2ヶ月間は避けるようにしてください。)
注射と手術のすき間を埋める、「切らない」手術(いままでの手術療法の欠点を補う新しい術式)
局所麻酔で行う傷が残らない「切らない」手術は、侵襲も痛みも少ないため、注射の延長線上の治療と考えています。そのため、切開をいれる手術は、病気が進行している患者さんから敬遠され、適切な時期に手術が行われず、病状が悪化してしまう患者さんも少なくありませんでした。
この「切らない」手術は、注射に類する治療ですので、適切な時期にお勧めできます。また、さらに進んだ概念で悪化する前に予防的効果を期待して治療できるようになってきました。
注射と手術の間を埋める、新しい治療法の概念を生み出したと考えられます。知らない間に進行してしまい、回復しない病気だからこそ、早期に根治療法を選択できればとても有益です。
また、合併症などで抗凝固療法をされているかたも出血が少ない手術ですので、対応可能です。どうしても手術時期が遅れ気味でしたが、「切らない」手術は、注射と従来手術の間のギャップを埋める新術式です。

「切らない」手根管症候群手術の特徴
使うのは超高精細エコーで、安全を確保
使用する注射針やフックナイフの位置や方向を確認するために、画像解像度に定評のあるCanon製高精細エコーを使用しています。整形外科診療で用いる標準プローブの18Mhz高周波プローブに加え、体表部分の高解像度描出に特化した24MHz超高周波プローブが使用できます。0.1mmの分解能をもつため、通常のエコーより画像が繊細に見えるため、より安全に、より確実に手術を行うことができます。24Mhzの超高精細プローブは大学病院レベルでしか導入されておらず、香川県下で同プローブを使用している数少ない医療機関の一つとなっております。

切らない手術は、こんな方にお勧めします
中高年の女性に多い病気ですので、このような方に有益な治療法です。
- ①水仕事が多い主婦の方
- ②手のひらの傷跡を残したくない方
- ③痛みに弱い方
- ④既往歴で抗凝固薬などを服用されている方
- ⑤病気が悪くなる前に予防したい方
- ⑥手を使うスポーツをされている方
- ⑦仕事が休めない方
- ⑧主治医に手術を勧められているが切開したくなくて踏み切れない方
- ⑨全身麻酔や入院はできない方
- ⑩音楽家やミュージシャンなど、よく手を使う方
「切らない」手根管症候群の手術の特徴
☆ 日帰り
☆ 痛みが少ない
☆ 傷が残らない
☆ 出血が少ない
☆ 感染の危険が少ない
☆ その日からお風呂に入れる
☆ 当日から水仕事ができる
☆ 悪くなる前に治療できる
☆ 超音波ガイドでモニタリングするため安全
☆ あみ飾り法の場合、靭帯を温存できる
手外科学会認定専門医が行う安心・最新の治療
切開せずに針だけで手術操作を行うため、確実な知識と技術が必要です。当クリニックでは、整形外科専門医の中でも、手の手術に精通した手外科学会認定専門医が行います。国内・海外で臨床経験を積んできた専門医が、極限まで合併症を減らした安心・最新・現時点で最善とされる治療法を提供いたします。
デメリットはありますか?
内視鏡法の場合、創が少し大きくなり(縫合が必要)、挿入する器械も多くなるため、出血・血腫、感染、腫脹・浮腫、麻酔量またそれによる薬剤アレルギー、神経血管損傷のリスク、疼痛、CRPSなどのリスクなどが、若干ですが上がってしまいます。
手技が煩雑なため手術時間が増える、出血予防の止血帯使用の時間が増えるため、腕の痛みを伴いやすい、創処置・抜糸が必要、水仕事ができないなどのデメリットがあります。また挿入物が大きくなるため、高度圧迫の重症手根管症候群の場合、神経の圧挫を生じることがあります。最大の問題は、光学式カメラでみているため、見えていないところの神経損傷が起こる可能性が高いことです。
切らない手術のフックナイフ法とあみ飾り法は、エコー操作とその読影技術など、専門的知識の必要な手術ですが、高精細エコーを使うため、神経の把握にすぐれ、内視鏡に比べ神経損傷のリスクは低いと考えています。また、出血や術後の創部の痛みや瘢痕などは、傷がないため、他の手術よりは少ないと考えられます。
ただ、いずれの術式も神経を圧迫している横手根靭帯靭帯を損傷しないと正中神経の圧迫を解除できないため、術後1~2ヶ月は同靭帯に負荷をかけないよう無理のない生活動作をすることが必要です。手をついたり、強く握るなどの力を入れる動作はなるべく避ける方が望ましいです。
また、いかなる手術・処置も体に侵襲を加えるため、合併症のリスクが少なからずあります。具体的には、①薬剤によるアレルギー、②腫れや出血・血腫による合併症、③感染、④神経・血管損傷、⑤疼痛またはそれによる運動障害、⑥血栓・塞栓症、⑦皮膚瘢痕・ケロイド・創部痛、⑧関節拘縮もしくは関節不安定性(関節を操作する場合)、⑨その他の合併症(CRPSなど予期せぬ合併症や、患部のみならず他の部位の不具合など)などを生じることがあります。未来は予測できないことも生じますので、状況に応じて最善と思われる対処法(薬剤の投与、術式の追加、処置の追加、蘇生処置、救急搬送など)を行います。緊急の場合は、同意なく行うこともありますが、ご理解のうえ手術をお受けください。
内視鏡法を受ける際の注意点
(切らない手根管症候群の手術との比較)
リスク (切らない手術よりすこし高い) | 注意点 |
---|---|
出血・血腫点 | 手術時間増 |
感染 | 止血帯を巻く腕が術中痛い |
腫脹、浮腫 | 消毒で2日に1回程度通院が必要 |
麻酔液量 | 抜糸が必要 |
薬剤アレルギー | 傷あとが残る |
神経血管損傷 | 10日~14日程度、水仕事不可 |
疼痛 | 内視鏡カメラとフックナイフと筒を狭い手根管内に挿入するため、神経の圧挫を起こす可能性あり |
CRPS | 先端のカメラでしか視野がないため、見えていない部分の神経損傷の可能性あり |
「切らない」手術の実際の手技
「切らない」手根管症候群の手術は、すべて日帰り、局所麻酔で行います。
当クリニックでは、二つの方法を用いています。
(*切らない手根管症候群の手術は、自費【保険適応外】になります)
①「あみ飾り法」 折り紙のあみ飾りのように神経を圧迫している靭帯に多数の穴を開けて靭帯を緩める方法です。靭帯を完全に取り除かないので、手の構造を保つことができます。神経の圧迫を取り除き、靭帯も温存できる画期的な新概念のハイブリッド手術です。他の手技に比べ、やや痛みが少ないこともメリットです。ただ繊細な手技のため、1時間30分程度と、他の手技よりも手術時間がかかります。どんな症例でも適応できますが、手をよく使い靭帯を温存したい方が適応になります。この方法は全国でもあまり行われていない方法ですが、海外(欧米)では行われている方法です。当クリニックではいち早くこの方法を取り入れており、そのメリットを日本で先駆けて提供しています。
②「フックナイフ法」 エコーを見ながら、靭帯の下に小さいフックのついたナイフを挿入し、靭帯を完全に切離する方法です。当クリニックの方法は、傷が一般的に手根管症候群の手術で使われる内視鏡の手術より小さい特徴があります。確実に靭帯を切離するため、比較的重症の方や中高齢者の方が良い適応です。
小切開を加える、内視鏡下手術について
当クリニックでは、切開を加える従来型の手根管開放術は行っておりませんが、内視鏡を用いた手根管開放術も施行可能です。(こちらの手技は保険適応となります。)
日帰り、局所麻酔にて行える部分は、あみ飾り法、フックナイフ法と同様ですが、内視鏡と切開用専用フックナイフを同時に挿入するため、切開が必要になります(創部の縫合が必要になります)。また、内視鏡を挿入するまでは、神経が把握できないため、神経の位置把握が難しい点や、カメラで見ている部分以外は見えないため、視野の狭小化による神経血管束の損傷の可能性は常につきまといます。
また靭帯温存することはできませんので、内視鏡法では靭帯完全切離が必要になります。
小切開手根管症候群の手術方法③ 〜内視鏡下開放術〜

治療費について
当クリニックでは、手根管症候群の手術は3通りの手法から選択できるようになっています。
治療費は1手につき、①内視鏡法は保険適応(3割負担の場合40,041円(税抜):手術費用のみ、麻酔費用や薬剤費等は別途必要)となります。
②あみ飾り法と③フックナイフ法は保険適応外となります。②あみ飾り法 200,000円(税抜)[220,000円 (税込)]、③フックナイフ法 150,000円(税抜)[165,000円 (税込)]となっております。
(内視鏡法の場合、治療費は、手術のみの費用となります。麻酔費用、術前術後の内服薬、処方費用などは含まれておりませんので、追加費用が発生いたします。自費治療の場合の手術費用には麻酔費用・術前後の内服薬・薬剤費・手術手技料を全て含みます。)
【自費の治療費について】
保険適応にならない自費治療の場合、生命保険や傷害保険の給付の対象にならないことがあります。また労災保険や自賠責保険の給付や、さまざまな公費補助も受けられません。
ただし、医療費ですので、医療費控除の対象になります。
手術をお考えの患者さんへ
「手術」という言葉の魔力のため、適切な時期に適切な治療ができず、病気が進行してしまい、神経細胞が回復不能になってから手術を選択されるケースも多くみられます。できるだけ痛みや恐怖心を少なくできれば、もう少し早い段階で手術に踏み切ることができ、しっかり回復して生活に復帰できるのでは、という思いから、この切らない手術を考案し、治療を行っています。
なお、内視鏡下開放術は保険適応ですが、切らない手根管症候群の手術については、自費治療で提供させていただいています。患者さんの痛みと手術の負担の軽減のために導入している治療法ですが、どうしても現在の日本の保険診療で認められた治療法では、先進的かつ高度な医療については対応しきれていない部分があります。患者さんには、現在の日本の保険診療制度の内で、提供できる治療の質・内容に制限が生じてしまっていることをご理解いただいた上で、この治療を選択していただくように説明させていただいております。
当クリニックでは、保険診療か自費診療かを患者さまにお選び頂く場合、患者さまに、これらのメリット・デメリットをきちんと説明し、ご自身で選んでいただくこととしております。そして、選んでいただいた治療を可能な限り全力を尽くして行います。当クリニックでは、患者さまとの信頼関係が最も重要であると考えています。お互いに信頼しあえなければ、治療を提供することはできません。ご不明な点はお気軽にご相談ください。
不安なことがあれば納得するまで医師にお問い合わせください。納得して治療に踏み切れるように可能な限り丁寧に説明させていたきます。
文責 整形外科専門医・手外科専門医
戸谷祐樹