切らないばね指の日帰り手術

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ばね指とは?
ばね指は指の屈筋腱の腱鞘炎で、ばね現象と呼ばれる、指が曲がったまま伸びなくなったり、伸びたまま曲がりにくくなる症状が出現するものです。症状は特に朝方や、動かし始めに強く、痛みを伴うものです。上肢の外科では、頻度の高い病気です。おもに中高年や、産後の女性に多いですが、男性にもみられます。
ばね指には進行度の分類があり、進行度1:痛みのみの段階、進行度2:自動でもどる指の引っかかり、進行度3:自分で戻らない指の引っかかり、進行度4:引っかかりが戻らないもしくはひっかかるところまで曲がらない、というふうに進行します。
手術の適応はおおよそ進行度3から4の段階で勧められます。従来手術と比べ、術後すぐに指が使えるようになったため、長い間、痛みや使いにくさに悩んでおられる方は、早めの手術も選択肢のひとつと考えられます。
なぜ、切らずに手術が行えるのか?
「切らない」ばね指の手術は、エコーを用いて、注射針だけで目的の組織を切開して病態を改善する小侵襲手術です。エコーを用いることでいままでできなかった体内の組織を切らずに標的にできるようになりました。
エコーガイド下の小侵襲手術は、まだ国内外の一部の医療機関でしか行われていません。技術的に難しい面もありますが、エコーをガイドにして行う整形外科手術はまだほとんど導入されていないのが実情です。当クリニックでは、海外での臨床経験を積んだ医師による、最先端治療が提供できる地域のクリニックとして患者さんの役に立っていきたいと考えています。
その日から水が使える、切開を加えない低侵襲な日帰り手術
初診時に高精細エコー(超音波)を用いて、病態を確実に診断し、手術適応かどうか判断します。触診だけでは腱鞘の肥厚の具合や、腱の滑走の状態がわからず、ガングリオンや癒着の評価を見誤ることがあります。切らないばね指が成功するためには、術前診断はとても重要です。そのため、当クリニックでは初診時にかならずエコーで画像評価を行います。
実際の手術は、エコーガイド下(超音波ガイド下)に、
①注射針を用いた切らないばね指手術(エコーガイド下経皮的屈筋腱腱鞘切開術)
②わずか2-3mmの小さい皮切で行う低侵襲ばね指手術(エコーガイド下微小切開屈筋腱腱鞘切開術)
の2種類を行っています。どちらも傷は従来法と比べかなり小さく、術後の痛みも少ない手術になります。またどちらも、抜糸が不要で、①の場合は当日から、②の場合は翌日から水が使えます。
実際には、ほとんど①の切らないばね指手術を行っていますが、難症例では切り残しが起こる事があります。そこで、当クリニックではバックアップとして②の2-3mmの小さい切開で行うばね指手術を準備した上で行うため、より確実な治療が可能になっています。②の手術の場合でも、翌日から水が使えます。
手外科専門医がエコーガイド下に行う、「切らない」日帰り手術
従来は2cm程度の切開をおこない、直視下に腱鞘を切離していましたが、抜糸が必要になり、水仕事も1週間程度さける必要がありました。
当クリニックでは、上肢の病気の専門家である、手外科専門医が超高精細エコーガイド下(超音波ガイド下)に、針だけを使って経皮的にばね指手術を行います。傷は注射針の穴だけなので、当日から水仕事ができます。高精細エコーを用いて腱鞘を確実に切開しますので、安全性も以前より高くなっています。さらに、術後の痛みは従来のやり方に比べかなり軽減できます。
残念なことに、おおよそ5%程度の症例で、腱鞘が太すぎたりして針だけでは切開が完了できない症例があるといわれております。当クリニックではその場合でも「2mmの切開」を追加して確実に治療ができるようにバックアップを行なってるため、切り残しが起きないようにしています。「2mm切開」ばね指手術は翌日から水が使えます。(ただし、いまのところ2mm追加切開を行うことになった症例は当クリニックではいまのところありません。)
また、癒着やガングリオンの存在などにより、小侵襲手術が困難な症例もあります。その場合は1cm程度の追加切開を行い、安全確実に腱鞘を切開しています。
こんな方に「切らない」ばね指手術が向いています
使用するのは高解像度の24MHz高周波プローブ
デメリットはありますか?
「切らない」ばね指の手術は、直視下に行うよりは確実性に劣ると言われていました。経皮的(切開を入れないこと)ばね指手術は通常は内部を見ない方法で行われていたからです。切開をいれなければ、内部の見えない組織(神経や血管など)を傷つけてしまう可能性があることも危惧されています。
当クリニックでは、それをエコーガイド下に行うことで確実に行う方法を開発いたしました。エコーで内部をみると施入した針も神経も血管も見ることができます。切開を入れるよりも安全に腱鞘を切ることができるようになりました。それでも、通常の整形外科で使われる18MHzのプローブでは、解像度が十分とは言えず、約5%程度の症例で、腱鞘の完全な開放が行えない場合がありました。そこで整形外科超音波診断治療を取り入れている当クリニックでは、24Mhzの超高精細プローブ(エコーでは、周波数が大きいほど分解能が高い)を導入することで、当初より確実性をあげることができました。24Mhzの超高精細プローブは大学病院レベルでしか導入されておらず、同プローブを使用している当クリニックは、丸亀市、ひいては香川県でも数少ない医療機関の一つとなっております。
もし万が一切り残しがあったとしても、追加の注射処置を行うことで完全な開放を得ることができます。追加注射処置になる症例も、高精細エコーの導入によりそれはほぼ解消されてきております。
今の所、切らない手術が成功せずに、切開を入れることになった症例は経験しておりません。100%とまでは言い切れませんが、切開を入れる手術と同等の成果が見込め、痛みと傷が少ない安全な治療だと考えています。
神経や血管などの組織を傷つける可能性を心配される方もおられますが、エコーガイド下手術では、神経も血管もエコーで見えるため、傷つけることはまずありません。むしろ切って開いていくまで見ることができない通常の手術の方がリスクが高いとも考えられます。現在のところ神経血管を傷つけた症例は経験しておりませんので、安心して治療を受けていただきたいと思っています。
また、もともと炎症や癒着がある方は、腱鞘を開いただけでは、炎症や癒着はすぐには改善しません。ゆっくり改善してきますので、しばらく炎症の腫れ、むくみ、痛みが続くことがあります。術前に炎症があるかどうかは、エコーでわかりますので、詳しくは診察時にご説明します。
第2関節が伸びきらない症状をお持ちの方へ

ばね指を長期間放置すると、第2関節が伸びにくくなってきます。これは特に中指で起こりやすく、薬指、人差し指でも時々見られます。腱鞘の狭窄が強く、滑走が制限されると滑膜炎がおこり、また腱自体も腫れて太くなるため、第1関節の腱鞘(A1腱鞘)だけでなく、第2関節の手前の腱鞘(A2腱鞘)でも腱の滑りが悪くなるからです。この病態はあまり知られていませんが、エコーを多く観察している当クリニックでは、術前から診断できるように病態がわかってきました。多くの症例はA1腱鞘をゆるめると滑膜炎が徐々に改善し、腱の腫れも引いてくるので、A2腱鞘でのひっかかりは改善しますが、中には、難治性の方もおられます。その場合はA2腱鞘を半分程度緩める処置を行います。ただし緩めすぎるとA2腱鞘での腱の浮き上がり(ボウストリング)がおこり、曲げる力が落ちてしまいます。できるだけA2を温存するように努めていますが、伸びが悪い方や、かなり長い間放置された難治性の方のみ、A2腱鞘の部分切開を行うようにしています。
切らないばね指の方法はA2腱鞘をゆるめる処置にも有効で、通常は切開を広げないと緩められないA2ですが、針先を奥に進めるだけでできますので、追加切開は不要です。また、術後に伸びない関節が困る場合でも、切開を入れずに、あとからA2腱鞘をゆるめる処置が可能です。
正常

第2関節が伸びきらないばね指

A1腱鞘を切開したあとのばね指


最後に
私が治療を行う際は、患者さんがもし自分の家族であったらぜひ受けてほしいと思う治療法を提案するように心がけております。
「切らない」ばね指手術はそのような治療法であると確信しております。わからないことがあれば診察時に何なりとご質問ください。治療に際しては納得して手術を受けていただくことが大切だと考えております。できるだけ不安を取り除き安心して手術をうけていただけるように適宜しっかり説明をさせていただきます。
文責 整形外科専門医・手外科専門医 戸谷祐樹